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玉井 美由紀さん

玉井 美由紀さん

株式会社FEEL GOOD creation代表。本田技術研究所、カラーデザイン室でS-MX、ステップワゴン、シビック等を担当後、独立。 色や素材の専門家として、現在は自動車だけでなく家電やインテリアなどの分野でも幅広く活躍中。オートカラーアウォード2009審査員。

株式会社FEEL GOOD creation

デザイン分野で注目されるCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)とは?

CMFデザインとは、“色、素材、仕上げ加工”のこと。日本ではまだ馴染みがないかもしれませんが、ヨーロッパでは色と素材専門のデザイナーが存在するほど確立された分野です。たとえば、普段のお買い物で「色が気に入らないから買わない」「素材感がもっとよければ買うのに・・・」という経験をしたことがありませんか?逆に、色に一目ぼれをしたり、素材の気持ちよさが決め手となって購入することもありますよね。そんなふうに、人の五感に影響を与え、心を豊かにするのがCMFデザイン。商品価値を左右する重要なポイントとして、プロダクトやインテリア、建築など、さまざまな分野で注目され始めています。

―通常のカラーデザインとCMFとは、どう違うのでしょうか。

決定的な違いは素材に対する知識。私はCMFの役割を「製品のコンセプトを語り、価値や機能を高めること」と考えています。工業製品で使われる素材は、グラフィックとは全く別の世界。CMFの素材感や表面の処理による表情などは写真やCGでは表現できないものなのです。そのため想像力や表現力はもちろん、製品の本質を理解したうえで、感性・理論・技術をバランスよく取り入れることも必要になってきます。

―CMFの可能性はどこまで広がりますか?

CMFを的確に使えば、機能性やスタイル、美しさやグレード感など、商品コンセプトをそのモノ自身に語らせることができます。また、カラーラインナップを持つことで商品の幅を広げることができるというメリットもあります。CMFデザインは単独で存在することはできませんが、見る人、使う人の心にダイレクトに訴えかけることができるのです。

そのためには、CMFデザインを行う前にその世界観をイメージ表現することが必要。CMFは形よりも鮮烈な記憶を残しやすいので、形や仕様が決まってから塗り絵的にCMFを選ぶのでは本当にふさわしい表現が出来ないのです。事前のイメージをビジュアル表現するというのは、開発サイドのイメージ共有にも有効なんですよ。

これはモノを開発する上ではとても大切なこと。特に車の開発期間は長く、多くの人が携わる為、出来るだけ早く製品のトータルイメージをメンバーと共有して、どのような世界観で商品化するか?ということを共有しなくてはなりません。

―ビジュアルで明確化されたイメージを共有して、そこから初めて色や素材を選んでいくわけですね。

例えば、モダンで先進的な世界観なら、それを表現できる色や素材はどんなものだろう・・・と考えていきます。クルマの場合では、それをもとにボディの色だけでなく、シートのファブリックや内装のシボ(インパネなどに見られる革のような柄)やオーディオパネルなどの色や柄までデザインしていきます。そしてそのデザインがきちんとコンセプトを表現できているか、ということが重要です。

CMF(カラーマテリアルフィニッシュ) CMF(カラーマテリアルフィニッシュ)
CMF(カラーマテリアルフィニッシュ) CMF(カラーマテリアルフィニッシュ)

クルマではまずコンセプトを「イメージビジュアル化」するところからスタートするそう。そのクルマが持つ世界観を、絵や写真などを使って目に見える形で表現するんですね。

ホンダ時代に手がけられたクルマでは、どんな例がありますか?

先ほどと重複しますが、私がCMFデザインをする上で大切にしているのは、世界観とコンセプト表現。例えば具体的な例で言うと、S-MXでは1970年代のホンダの名車「ステップバン」の生まれ変わりのようなインパクトと、まるでベットのようにフルフラットになるベンチシートの内装が売りだったんです。そこで、それらを強調するために、バ~ンとインパクトのあるオレンジ外装色を開発。また、ブルー系の内装色と補色対比になるオレンジ色のシート表皮をデザインし、部屋にベットが浮かんでいるように見せました。

コンセプトやデザインの特徴を強調するために生まれた、内装色とシートの色を変える手法は現在多くの車で当たり前のように使われていますが、S-MXが初めてだったんです。

また、シビックのときは「全世界に販売するクルマの開発」ということで、世界中のCMFの嗜好性を調べたり、場所によって見え方の変わる色なども調整しました。色というのは周りの環境や光源、さらに目の色によっても違って見えるのです。嗜好性も見え方も文化も違う世界なので、CMFデザインは国に合わせて調整するんですよ。

―今後、チャレンジしたいことは?

CMFはまだ知られていない分野だけに、ニーズがわからないだけでなく、ニーズがあることに気づいてもらえないことも・・・。最近ようやくプロダクト製品などはカラーバリエーションが豊富になってきましたが、素材にまで目を向けられる専門家はまだまだ少ないのが実情です。でも、工業製品の色は素材や表面の処理によって見え方も印象も大きく変わり、製品はグッと上質になったり、かっこよくなったりするのです。 日本は優れた文化と技術を併せ持つ国。その素晴らしさを、CMFデザインという分野の確立とともに、世界へ発信するのが夢です。

色は心の情感を表現するもの。「色がイヤだから買わない」という感覚は、女性のほうがわかるかもしれませんね。私自身の女性視点も活かしながら、クルマ以外の分野でもまずはCMFの重要性を世の中に広めつつ、より良いモノ造りを目指していきたいと思います。

玉井 美由紀 玉井 美由紀

これまで玉井さんが手がけてこられたクルマたち

<フル・モデルチェンジ、新機種>
1997年モデル S-MX(第1回 オート・カラー・アワォード:ファッション カラー賞受賞)
2001年モデル ステップWGN、インテグラ
2006年モデル シビック 全シリーズ(第8回 オート・カラー・アワォード:技術賞受賞)

<マイナー・モデルチェンジ、他>
S-MX
オデッセイ
ステップWGN
ストリーム

※その他にも、先行開発車やモーター・ショー用のクルマなども手がけられたそうです

玉井 美由紀 玉井 美由紀 玉井 美由紀

当時、クルマ雑誌だけでなく女性誌でも開発者インタビューが取り上げられたそうです。

編集後記

CarTime版でもおなじみ「オートカラーアウォード2009」の審査員をされている玉井さん。なんとご自身もホンダ時代、シビックで技術賞、S-MXでファッションカラー賞に輝いた実績が・・・!独立の理由を「ずっとデザインの現場で仕事をしていたかったから」と語っておられましたが、その専門性を活かしてデザイン界にCMF旋風を巻き起こしてほしいです!